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高血圧について考える(前編)

そもそも血圧って?

健康診断や受診時に測られる血圧。スポーツジムや温泉にも血圧計が設置されており、家電としても売られているほど、身近な健康チェックの指標です。血圧は血液が全身を流れる圧力であり、心臓の筋肉が縮んで中の血液を一気に絞り出し、その高い圧をしなやかな動脈が受け止め緩和しています。また、心臓や動脈の働き具合を調節しているのが自律神経です。興奮系の交感神経とリラックス系の副交感神経のバランスにより自動調節されています。

運動時の血圧について

よく、「何度も血圧を測ると数値が変わりますが、どれが本当の血圧ですか?」という質問を受けます。実は、全て正解です。身体は、刻一刻と変化する状況を把握し続けて適正な血圧にしようとしています。血圧というものは百回測れば百回違うものです。
 階段を駆け上れば筋肉へ血液を送る必要が生じ、それを瞬時に察知してドキドキ回数(心拍数)や、出ていく血液量(心拍出量)を上げて(血圧を上昇させ)、全身へ必要な酸素と栄養素を送り出そうとします。運動後は心臓がドキドキしてますよね。

安静時の血圧について

その後、休憩すると全身への血液は必要ないと察知すれば副交感神経が心拍を減らして元に戻っていきます。これは身体の営みであり、運動時に血圧が上昇して安静時には下降するのが正常です。
 この調節能力の不具合で、血圧を上げる必要も無いのに高いままですと高血圧症となります。逆に上げなければいけない状況なのに血圧を上げ損ね、立ち上がる度に失神しかけていたら低血圧症となります。

高血圧は取り返しのつかない状態も引き起こす

血圧というものは文字通り「圧力」なので、高い圧を出し続ける心臓は激しい筋トレをすることとなります。筋トレの程度が強い(かなりの高血圧)状態が長く続くと、心臓がマッチョになり心肥大となります。すると分厚くなった筋肉により血液が入る空間が減り、心臓の変形や動脈硬化も加わり心臓弁膜症も起こしやすくなります。血圧が高すぎれば、過度の圧力負荷により物理的に血管内膜の内皮細胞が傷つくと考えられています。そうなると、血管が破れやすくなるのは当然で、高血圧と脳内出血の関係は有名です。
 高血圧でもうひとつ恐いのは、動脈硬化でカチコチになった血管は激流を柔軟に受け流すクッションにならず、末端までまともに高い圧を受け続けることです。圧に耐えかねた大血管が裂けると大動脈瘤破裂を来します。この手の高血圧は薬剤を使っても正常範囲へ戻りにくいです。

適正な血圧の範囲って?

高血圧の基準は現在のところ、日本高血圧学会の指標140/90未満(単位mmHg)が標準になっています。最近報道された「健康な人の血圧は147まで」というのは、人間ドック学会による新たな指標の提唱です。何万例の健康と言える人々を検証した結果から導き出されたので間違ってはいないとは思うのですが、現在の医学会では参考意見に留まっています。
 適正な血圧とはなんでしょうか。私は昔ながらの「年齢+90」を目安にして良いと思っています。世界の中で老若男女も体格も生活背景も問わず、一律で収縮期血圧が140以上を高血圧としている国は日本以外にどれだけあるでしょう。普通に考えて空調の効いた快適な場所で働く華奢な女性事務員さんと、体格のよい炎天下の男性屋外建築作業員とが同じ血圧でよいと思いますか?
 改めて、適正な血圧とは、血管が破れるほど高すぎず(一般的に収縮期血圧180以上は危険とされる)、全身の血流が滞るほどに下げすぎない範囲のことと言えます。
 血圧手帳に一番よい値を書くのはやめて下さい。一点の血圧値だけを見ずに、全体の変化の流れを見ましょう。その変化を主治医と共有することによって、細かな薬剤調節が可能となります。最初のうちはこまめに様々な状況下で血圧を測り、自分がどんな時にどんな血圧かを知る事が大切です。

自分の血圧について考える時に大切な3つのこと

● 「血圧は常に変化しているもの」と心得る
● 様々な状況下の自分の血圧を知る(計測・記録する)
● 測った数値に一喜一憂せず、全体の変化の流れを見る


>>高血圧について考える(後編)はこちらから



 
医学博士 田中 佳 氏
昭和60年に東海大学医学部卒業後、同大学付属病院脳神経外科助手を経て、市中病院で急性期医療に長年携わる。脳神経外科学会および抗加齢医学界の専門医となり、悪性脳腫瘍に関する研究で医学博士を取得。現在は、予防医学、教育講演活動、執筆活動に取り組んでいる。主な著書「健康自立力」「続・健康自立力」(メタモル出版)、「健康の原点は食と腸にある」(きれい・ねっと)、「あなたが信じてきた医療は本当ですか?」(評論社)
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